昨今取り上げられている地球環境問題や食料問題、あるいは地域活性化、文化保全といった問題は古くて新しい問題である。そして重要なことはこのような身の回りから地球規模の問題に至まで、ほぼすべての問題が、地理的な要因に絡んでいるということだ。人間は誰しも空間の中で暮らしている、という当たり前なことを考えてみれば、それは至極当然のことと言えよう。
良くありがちな「遠くの国の出来事は私には関係ない」と思う一方で「自らの文化の良さに気づかない」、これもまた地理的な弊害の事例であり、地球におきている諸問題の解決を難しくしている一要因であるといえよう。
アフリカの食料問題が自らの生活とどのような関係にあるのか、あるいは、自らの文化が、地域社会の中でどのような役割を果たしているのか、図像により視覚に訴えかける一つの手法にジオ・ブラウザがあると我々は考えている。GLOBALBASEプロジェクトは、地球におきている諸問題をジオ・ブラウザや関連技術を使って表現し、人々に訴えかけることを目的としている。
地球をブラウジングするためのソフトウエアとして良く知られているものにGoogleEarth, Earth Browser, NASAのブラウザといったものがある。GLOBALBASEプロジェクトが目指しているものも、見かけ上は、よく似たブラウザを作ることだ。
しかしジオ・ブラウザにも落とし穴がある。地理情報には、航空写真や整備された地図などおおがかりなものが多く、必ずしも、どんな人も、どんな国も作れるものではない。他のジオ・ブラウザはこれらのものをブラウザ開発会社や関連企業がこれらのベースとなる地理情報を提供することになっている。あるいは権力を持った組織がその組織に都合の良い地理情報を構築する。このため必ずしも地域社会の情報や地球の問題を反映したものではない地理情報が公開される原因となる。
地域社会の情報や地球の問題を正しく反映されるジオ・ブラウザとはどのようなものであろうか。それはおそらく地域や問題意識を抱く人々や組織が自ら情報を発信できるジオ・ブラウザであろう。自ら発信する情報は、同じ対象に対する情報でも発信者が異なると異なるものなる。矛盾も生じるであろう。しかしそのような矛盾を秘めた多数の情報が同じ空間上で重なり合うことが大切なのだとGLOBALBASEでは考える。
このような立場からジオ・ブラウザを考えると、まず最初に問題になってくるのはデータ構造である。GLOBALBASEではベースマップを規定しない。すべての公開されている地理情報は対等であり、どれもがベースとなることが出来る。閲覧者側もベースを臨機応変に選ぶことができ入れ替えることが出来る。また、個々の地理情報のあらゆるパラメータは情報発信者の権限ですべてを決めることが出来る。さらにこれらの地理情報は管理者の権限内に完全に掌握されたサーバ上に保存することがでる。
一方情報の閲覧者も、つまりジオ・ブラウザ・ユーザは、求める情報のキーワード、分類情報から、ネットワーク上の地理情報を選び出すことができ、選び出された地理情報はシームレスに一つの空間の中で閲覧可能である。
いわばこのようなGLOBALBASEが提案する条件はWWWのドキュメントと情報発信者の関係では当たりまえなのであるが、ネットワーク型地理情報システムではまだあたりまえになっているとは言えない。ここをGLOBALBASEは最新の自律分散技術をもって実現することを目指している。
GLOBALBASEプロジェクトでは以上のことをふまえ、以下のような取り組みを行っている。
地図の啓蒙活動
とかく、地図は難しいというイメージがある。地図を利用する方はまだしも、地図をつくるということについては抵抗感がある人たちが多いようだ。そこで、地域振興活動の一環としても役立つこととして、いろいろな人たちと地図を作るワークショップを開催している。「あしたの地図よ」と名付けられたこのワークショップは、子供たちも参加して好評である。
「あしたの地図よ」
こういった子供たちの描いた地図も専門家が作った地図と同様に、以下に述べるシステムの中に組み込み閲覧することが可能であるということがGLOBALBASEの大きな特徴である。「あしたの地図よ」は一つ一つのワークショップはあたかも全然関係のないことを行っているように見えるが、だんだんと数が増えてくるに従って一つの地図につながっていくのである。
パラレル・スケープ (Parallel Scape)都市空間の新しい楽しみ方
GPSとGLOBALBASEをつかったゲーム感覚の地域理解の方法を提案する。
Parallel Scape ホームページより始動準備中。
新しいオープンソース(LGPL)空間ブラウザの開発
COSMOSと名付けられた空間ブラウザと、地図、地理情報を発信するためのサーバLANDSCAPEを開発する。COSMOSやLANDSCAPEは以下のダウンロードページからダウンロードし、利用することが出来る。
ダウンロード・ページ
開発された空間ブラウザとサーバのソースコードはすべてオープンソースとして公開されており、これをもとに新たに別のソフトウエアを開発することも可能である。
2007年9月10日現在、COSMOS,LANDSCAPEともにベータ版ver.B.b16.12である。システムの開発目標を述べると以下の通りである。
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ver.A. code name ASTROBOY (既に開発終了)
GLOBALBASEの基本的なネットワークプロトコル「自律分散型地理情報システム」の開発を目標としたバージョンである。
詳細は、「アーキテクチャ」「データストラクチャ」の項目を参照されたい。
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ver.B. code name BLAZE (ベータ版)
ver.B.では、より人並みにブラウジングできるブラウザとしてCOSMOSのユーザインタフェース、データ編集機能、LANDSCAPEの情報発信機能を実装する。
- 専用ブラウザCOSMOSの基本的なユーザインタフェースの完成
- COSMOSにて、2次元地図/航空写真のブラウジングが可能
- 複数の地図をリアルタイムで検索し重ね合わせ表示する機能
- COSMOS 拡張機能にて簡単なプロットや地図、凡例の加工が可能
- LANDSCAPEにより巨大ベクタデータ/ラスタデータ(マトリックスデータ構造)の発信が可能
- LANDSCAPEの既存のベクタデータ/ラスタデータからのデータ変換スクリプト
- LANDSCAPEのネットワークとWWWのネットワークをゲートウェイするHTTP-GATEWAYのサポートにより、ウェブにGLOBALBASEの地図群を貼付ける機能
- LANDCSAPE上のデータを検索する検索エンジン機能。GLOBALBASEのネットワーク上に登録されている地名や地物の名前の検索ができる他、ベクタデータからリンクされているWWWのページもクローリングし、位置情報と関連させて検索できる機能
ver.B.の正式リリースは、2008年秋を予定している。
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ver.C. code name CERRESTO (計画中)
ver.C.では、よりリアルな空間作りに向けて開発を進める。地上から宇宙まで、実際の空間に近い表現ができるシステムを目指す。
- 3次元もしくはそれ以上の次元をもったデータのサポート。
- それらの投影法をもったCOSMOSの開発。
- 場(例えば重力場)の表現を可能とする。
- 非ユークリッド空間(ミンコフスキー空間など)投影法をサポート。
新しい空間ブラウザの普及に向けた様々な取り組み
また、LANDSCAPEを使って情報発信をしたいという方々をサポートする体制も整えつつある。LANDCSAPEを使ったホームページの開発やデータの作成を行う賛同企業、NPOなども徐々に増えている。サーバの知識がない場合でもこういった団体に頼ることができる。もちろん独自にサーバをたてることも可能である。
E-mail: joshua [at] globalbase.org 森洋久 宛